鹿児島の新築一戸建て
都会で子育てを終えた施主夫婦が、生まれ育った鹿児島の地で余暇を過ごすための週末住宅です。
【「く」の字型の平面】
鹿児島の日差しはきらきらと眩しく、風はさらさらと涼やかです。Uターンで約40年間の都会暮らしから鹿児島に帰ってきた施主が、この土地らしい太陽の光と風をめいいっぱい懐かしめる家を考えました。
このため通常であれば正方形に近い箱形になりがちな住宅を、外周長が長く取れる細長い平面形状として検討をスタートし、案を進める中で、敷地形状に沿った部分と、熱効率を高めるため正南させた部分で折れ曲がった「く」の字型の平面形状となりました。
「く」の字に囲まれた庭の部分は現在宅地開発中の隣地に新しく建物が立った場合でも、室内を明るく保つ光庭の役割も果たします。
冬は家の奥まで朝日を導き、夏は強い西日を遮るよう、軒の出と開口位置を綿密にシュミレーションしました。UA値は0.5を確保しています。
【おおらかな一室空間】
大家族が折々で集まり、のびのび一緒に過ごしたい、というご要望が当初からありました。
その回答として、家全体をリビングと二つの個室が緩やかにつながり、大家族をおおらかに受け入れる一室空間としています。普段少人数で使う際は、四連引戸や吹き抜けで空間を区切り、時には集中して仕事をしたり、寝室として使ったり、プライベートな使い方もできるようにしています。
垂木をあらわしにして繊細な陰影を出した天井は、高さをミリ単位で調整して低く抑え、広々とした空間でも居心地とのバランスを崩さないよう詳細を綿密に詰めました。
【人と家の変化を享受する】
立った時が一番良い姿ではなく、時を経るごとに魅力が増す家を目指しました。
外壁は耐候性に優れ、経年変化でシルバーグレーになっていく焼杉を使い、内部も無垢の木や珪藻土等、経年変化を楽しめる自然素材をふんだんに採用しました。
また、家自体も人の変化を優しく受け止めるよう、扉は全て引戸で迎え入れ、足が悪くなれば自然に腰かけられるような造作を設けるといった工夫を随所に施しています。
ゴッホは太陽の光あふれる南仏アルルに移住してから後に多くの人に愛されるひまわりや夜のカフェテラス等、輝くような絵画を描くようになったと言われています。
そんな太陽の光という万人に共通の恩恵を享受し、末長く人とともに生き続ける家となることを祈っています。
竣工年:2025年
場所:鹿児島県霧島市
用途:一戸建ての住宅
主要構造:在来木造
規模:延べ面積 約88㎡
撮影:studio MAU